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東京高等裁判所 昭和36年(う)1085号 判決

被告人 前川力

主文

原判決を破棄する。

被告人を原判示第一の罪につき懲役四月に、同第二の罪につき懲役六月に処する。

原審における未決勾留日数中四十日を原判示第二の罪の本刑に算入する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

一、原判決は法令の適用の誤りを主張する論旨について。

記録を調査するに、原判決は「被告人は(1)昭和三十五年四月二十一日豊島簡易裁判所において窃盗罪により懲役一年三年間執行猶予の判決を言渡され、この判決は同年五月七日確定し、更に(2)同年十月十三日横須賀簡易裁判所において右執行猶予期間中に犯した窃盗罪により懲役一年四年間執行猶予(保護観察附)の判決を言渡され、この判決は同月二十八日確定したが、右(1)の判決の言渡後その確定前である同年四月二十九日及び同年五月五日の両度窃盗罪を犯し(原判示第一の罪)、更に引続いて右(1)の判決の執行猶予期間中で右(2)の判決の言渡前である同年七月一日及び同月十日頃の両度窃盗罪を犯した(原判示第二の罪)ものである」との事実を認定し、右(1)の確定判決の罪と右前者の両度に亘る窃盗(原判示第一の罪)、右(2)の確定判決の罪と右後者の両度に亘る窃盗(原判示第二の罪)とはそれぞれ刑法第四十五条後段の併合罪の関係に立つもの(それぞれ右各確定判決の罪の余罪)であるとして、右前者の両度に亘る窃盗(原判示第一の罪)につき被告人を懲役四月に処し且つ刑法第二十五条第一項により二年間右刑の執行を猶予し、右後者の両度に亘る窃盗(原判示第二の罪)につき被告人を懲役六月に処し且つ同法第二十五条第二項第二十五条の二第一項後段により四年間右刑の執行を猶予しこの猶予期間中被告人を保護観察に付したものであることが明らかである。而して前記(2)の確定判決を見るに同判決は刑法第二十五条第二項によつて再度の執行猶予を言渡したものであるが、この確定判決の罪と余罪の関係に立つ原判示第二の罪についても同条同項により刑の再度の執行猶予を言渡すに妨げないことは勿論である。所論は刑法第二十五条第二項が一年以下の懲役又は禁錮に処する場合に限り再度の執行猶予を言渡すことができる旨規定した法意が短期自由刑の弊害を顧慮する反面刑期が一年を超えるような悪質なものについてまで再度の執行猶予を許容することは刑政を弛緩せしめる虞れがあると考えたによるものであるとなして、右規定により再度の執行猶予を附した確定判決のある場合その判決の罪と余罪の関係に立つ他の罪につき更に同規定により刑の再度の執行猶予を言渡すことができるのは両判決の言渡刑期の合算が一年以下である場合に限られると解すべきである旨主張するけれども、右規定の法意を仔細に考察するに、これを右主張の如く制限的に解しなければならないとすべき根拠は毫も見出し難く、ただこの場合その余罪が確定判決の罪と同時に審判されていたならば一括して一年以下の懲役又は禁錮を以つて処断されたであろうと考えられる場合であれば足るとする趣旨であると解する方が同規定の精神に添うものと言うべく、この条件と同条項所定の「情状特に憫諒すべきものある」との条件の両者の備わる場合である以上、たとえ前の確定判決の言渡刑期とその判決の罪と余罪の関係に立つ他の罪に対する後の判決の言渡刑期との合算が一年を超える場合であつても、右余罪の刑につき前記規定により再度の執行猶予を言渡すことは何等違法ではないと解すべきものと考えられる。従つて原判示第二の罪の刑が前記(2)の確定判決の刑と合算して一年以上の懲役となる場合であるの故を以つて原判決の違法を主張する論旨は理由がない。

(注、本件は量刑不当で破棄)

(裁判官 兼平慶之助 斉藤孝次 関谷六郎)

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